ACメルマガ・セレクト1
- 心は脳に宿る
- 脳はホルモン漬けされたコンピュータである
- 脳=心をコントロールするにはホルモンを増減すれば良い
こころとホルモン(2012.1.1)
こころとホルモン2(2012.1.8)
幕の内も終り、いよいよ新しい年が始動します。
今年はどんな年になるでしょう。
さて、前回は脳と神経系はもともとホルモンを分泌して、からだ全体を協調動作させるために発達してきたことをお話しました(それ以外に、外界の刺激を目や耳などの感覚器官で受け止めて筋肉を動かすことも脳の基本的な機能ですが、ここでは割愛させていただきます)。
その逆に、体内の臓器からもホルモンは分泌され、それが脳に影響を与えます。
つまり、脳と臓器はホルモンによって双方向に通信しているわけです。
だから、「こころ」を制するにはホルモンのことをよく知らなくてはならないわけですが、その前に、ホルモンがいかにこころを支配しているか、その実例をいくつか見てみたいと思います。
低血糖
空腹になり血糖値が低下すると、ノルアドレナリンというホルモンが副腎髄質から分泌されます。
ノルアドレナリンは交感神経を活発にし、心拍数の増大や瞳孔の拡張を招きます。これはエサを手に入れるべく、からだを活動的にするためです。
しかし、交感神経が活発になると、副交感神経の働きは抑えられます。
副交感神経はセロトニンで動く神経系なので、これが不活発になるということはセロトニンの分泌量が減ることを意味します。
セロトニンは神経の興奮を抑え、多幸感を産み出しますから、これが減ると否定的な感情が表に出やすくなり、不機嫌になります。
腹が減ると不機嫌になる人が多いのは、そういう理屈なのです。
体内に於けるセロトニンの平均的な量は、人によって異なります。
それが少ない人ほど低血糖の影響を受けやすいと言えます。
乱暴な性格の人、とくにティーンエイジャーは低血糖症であることが多いそうです。
また、度が過ぎるほどに酒を求め、甘いものに目がない人は要注意です。
そういう人は血中インスリンの値が高く、血糖値が低めなので(インスリンは血糖を吸収します)常にイライラし、衝動的な行動に走ったりすることもあります。
精神の安定には、適正な血糖値の維持が不可欠なのです。
更年期
歳をとると体内の様々なホルモンが急激に減少します。
一番問題なのはセロトニンの量が減ることです。
その結果、精神が不安定になったり気分が落ち込んだりすることがあります。
更年期のインパクトは男性より女性に強く出るようです。
女性は黄体ホルモン(プロゲステロン)の力でセロトニンの量を上げています。
このため、妊娠中の女性は精神状態が安定しています。
しかし、出産が終り黄体ホルモンの量が減ると、セロトニンも相対的に減少し、産後うつなどになることがあります。
さらに、更年期になるとプロゲステロンの減少とセロトニンの減少のダブルパンチをくらってしまいます。更年期の不安定な精神状態は、自分がおかしくなったのではなく、単にホルモンのバランスがくずれたせいに過ぎないのです。
若気の至り
名著『文明の衝突』の著者サミュエル・ハッチンソンは、イスラム圏について「膨大な若年人口は、チクタクと時を刻む時限爆弾である」と述べています。
その理由は、「若者は反抗、不安定性、改革、革命の騎手である」からだとしています。
この場合の「若者」の多くは男性です。
なぜ若い男性は時限爆弾なのでしょうか?
男性は男性ホルモン(テストステロン)に支配されており、テストステロンは攻撃性や暴力傾向などの支配欲を産み出すとされています。
考えてみると、一見思想や信条に基づいて行っているはずの革命行為が、実は男性ホルモンによって引き起こされているとしたら、どこか哀しいですね。
こころとホルモン3(2012.1.15)
ここまで、こころとホルモンの関係について話して来ました。
今回は、どのようなしかけでホルモンがこころに影響を与えているか、そのメカニズムについて簡単に紹介してみようと思います。
メカニズムというと、どうしても「脳」の話になります。
しかし、脳について書かれた本をひもとくと、聞いたこともないような器官の名称がずらりと並んでいます。
脳幹、視床下部、脳下垂体、扁桃体、尾状核、嗅球、海馬、間脳、大脳基底核、大脳辺縁系・・・。
これだけでもわけが分からないのに、そこに載っている図がこれまた面妖なものが多いと来ています。脳ってしわしわのボールかと思っていたのに、サザエのつぼ焼きみたいなものがその中に埋まっているんじゃあ、お手上げだい(笑)。
そこで、以下では思い切っていい加減に、アバウト(英語)、てげてげ(薩摩弁)で解説してまいります。
まず、脳・神経系は上の方から
・大脳
・小脳
・間脳
・脳幹
・延髄と脊髄
となっているとします。
脳をしわしわボールに喩えると、そこに長い棒(脊髄と延髄)が突き刺さっています。突き刺さっていて外から見えない所に、脳幹(赤色)と間脳(黄色)があると思って下さい。
こころにとってとくに重要な器官はこの「間脳」という部分で、ここから脳全体に特別な神経が伸びています。
第一回で述べましたが、もともと神経細胞はホルモンを運ぶパイプとして誕生しました。それがパイプの中にホルモンを流すのではなく、ホルモン分泌装置をパイプの先に置いて、そこまで電気信号を流す形に進化しました。それがこの「特別な神経」です。
何が特別かというと、
・ホルモンが「モノアミン」という毒性の強い物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン)である
・パイプが大脳や小脳の神経繊維のように絶縁されていない低速の信号路(無髄神経)である
・脳全体に広域分布し、脳の活動を全体的に左右している
などです。
このタイプの神経細胞は、すべて脳の中央部の脳幹・間脳から出発して広く脳全体に伸びています。それぞれに番号が付けられていますが、有名なものは
A6神経系:ノルアドレナリンを出し、精神を覚醒させる
A10神経系:ドーパミンを出し、快感を与える
B系神経系:セロトニンを出し、精神を鎮める
です。図はA6神経系です。
ひらたく言えば、人間を覚醒させ行動させるときにはA6神経系を、気持ちよくさせるときにはA10神経系を、脳を休ませ睡眠に導くときにはB系神経系を使ってそれぞれのホルモンを脳全体に撒くように出来ているのです。
それじゃあ、眠くて仕事にならないときにA6神経系に電気刺激を与えてやれば、しゃきっとなるのかな?
いい気分になりたければ、A10神経系を刺激すればいいのかな?
答えはイエスです。
1954年に、カリフォルニア工科大学の先生がラットの間脳に電極を植え込んで、レバーを押すと快感を生じる電気刺激が与えられるようにしたところ、なんと1時間に数千回もレバーを押すラットが現れました。
1963年にはエール大学の先生が脳を電気刺激する電子装置を発明しました。
この装置を脳天に植え込むと、常時脳波を観察できるとともに、離れた場所から刺激を与えることができ、怒り狂った動物を指一本で鎮めることができました。
1972年にはついに、ニューオリンズのテュレイン大学で人体実験が行われ、性中枢を押しボタンで刺激させて完全な性体験を得させたりしました。
その頃出版されたマイケル・クライトンの「ターミナル・マン」は、このような電気刺激による脳制御の恐怖を描いた傑作です。
電気刺激でなく、これらの神経ホルモンを直接投与しても同じような効果が得られます。それが覚せい剤や麻薬です。
言うまでもなく、このような手段の乱用は破滅的な結果を招きますが、脳神経ホルモンがこころに影響を与えるメカニズムが、かなり分かって来ているのも事実なのです。
こころとホルモン4(2012.1.22)
この連載を読んでくれている皆さんは、人間のこころというものは体内で分泌されるホルモンによって大きく左右されることをもうご存知ですね。
では、私たちはホルモンの分泌をコントロールすることにより、こころの状態をコントロールできるのでしょうか。
できるとするなら、どうやってホルモンの分泌をコントロールすればいいのでしょうか。
本連載では、これから数回にわたって、この難問に挑戦していきたいと思います。
前回、脳の中心部にある間脳というところから、特別な神経が脳全体に分布しており、それらはノルアドレナリンやドーパミン、セロトニンと言ったホルモンを分泌して脳の状態に大きな影響を与えると申し上げました。
この特別な神経にはそれぞれに番号が付けられていて、A6神経系はノルアドレナリンを放出し精神を覚醒させるし、A10神経系はドーパミンを出して快感を与える・・・、などと述べました。
そうすると、各ホルモンごとに何種類もの神経が脳内を走っているのでしょうか。
それは、大脳や小脳でものを考えたり運動したりするときに使う神経とどんな関係にあるのでしょうか。
以前に述べたように、これらの特別な神経はホルモンを分泌することが目的の神経です。
たしかに電線のように電気信号が流れてはいますが、役割としてはホルモンパイプです。
だから、ホルモンの種類ごとに違う神経が使われています。そして、神経系のいたるところからそれぞれのホルモンが脳全体に分泌されるのです。
パイプ自体も絶縁されていなくて、流れる電気信号も大体秒速1メートルくらいと低速です。そして、分泌されるホルモンの量が変わると、その影響もアナログ的に増減します。
これに対して、大脳皮質などに見られるいわゆる「脳細胞」は、ホルモンパイプではなく情報処理装置(コンピュータ)です。パイプは絶縁されていて、信号速度は毎秒100メートルと高速です。
シナプスという末端からは次の神経細胞に信号を送るためにグルタミン酸(信号をストップさせる場合にはギャバGABA)という神経伝達物質が使われますが、これはその量によって影響の大きさが変化したりはせず、信号を伝える(オン)か伝えない(オフ)か、まさにコンピュータと同じようなデジタル信号として使われるだけです。
これら2種類の神経系の相互作用は、次のように考えられています。
皆さんは神経細胞というと、こんな図を思い出されることでしょう。
この図で右の方に一本だけ長く伸びているのが、これまで「パイプ」と呼んで来たもので「軸索」というのが正式名称です。
軸索の末端は別の神経細胞のたくさん枝分かれしている「樹状突起」という部分に接していて、そこまで電気信号が届くと神経伝達物質が分泌されて樹状突起に流れ込み、再び電気信号として次の細胞に伝えられて行きます。
上の図は説明をするための模式図ですが、本当の神経細胞は非常に多くの樹状突起を持っていて、実にたくさんの神経細胞とつながっています。それがこの図です。
さて、この樹状突起のどこかに「ホルモンパイプ」がつながっていて、そこからホルモン(ノルアドレナリンやドーパミン、セロトニンなど)が放出されると、グルタミン酸の場合と違って電気信号になるのではなく、電気信号を流れやすくするのです(その反対もありますが省略します)。
つまり、「ホルモンパイプ」からホルモンが分泌されると、脳細胞は平常より元気になるわけです。これを脳細胞が賦活されると言います。
これにはどういう意味があるのでしょう。
前に述べたように、ノルアドレナリンやドーパミン、セロトニンなどが放出されると、緊張したり気持ちよくなったり、何らかの感情が芽生えます。
そのようなときに一部の脳細胞が元気になると、何が起きると思いますか?
それらの感情と結びついた形で記憶が定着するのです。
たとえば久しぶりに戸外を散歩して気持ちがよかったとします。すると、散歩=気持ちいい という記憶が植え付けられるのです。
これを「快感脳」などということもあります。
歯医者で虫歯の治療をしたときに、それがとても痛かったとします。すると、歯医者=痛い、怖い という記憶が鮮明に植え付けられます。本にただ「歯医者は痛い」と書いてあっても、そのような記憶は生じませんね(笑)。
また、試験前夜という緊張感(=ノルアドレナリン放出)があるからこそ、脳細胞が活性化されあれほど沢山の知識を詰め込むことができるのです。
人間の記憶は感情と結びついているのです。
大脳はたしかにコンピュータに良く似ていますが、それはホルモンに浸けられたコンピュータで、その働きはホルモン次第なのです。
ここにこころの秘密があります。




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